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例えば、梨本は粒径が0.18mmの底質上に約6〜11cmのホッキガイを置き、貝が潜砂行動を開始してから殻長だけ潜るまでの時間を計測し、殻長に対する潜秒速度および生息深さを測定している4)。また、山下は底質の粒径を0.15mmとし、水温を5℃から20℃までの範囲で、水温と潜秒速度の関係を求めている5)(Fig-3)。城戸は殻長20mmのホッキガイを用いて、水温が19.4℃〜25.O℃の条件下で、0.079〜1.023mmの範囲の底質砂に対して、底質粒径と潜砂速度の関係を求めている6)(Fig-4.)。

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Fig-3. Burrowing-into speed for water temperature5)

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Fig-4. Burrowing-into speed for grain size6)

3−3 移動限界流速
波浪などの外力による転勤によりホッキガイの移動限界流速を越える場合、稚貝が大量に減耗(死や他の動物に食べられたり、増殖場から移動によって個数が減ること)することが増殖の障害となっていることから、それに伴う減耗についても室内実験により調べられている。
渡辺は、波浪による減耗機構を調べるために、貝の転動を模擬した砂混じりの振とう実験を行っている7)。その結果、振とう時間が長く、砂の量が多くなるに従って減耗率は高くなることが判った。砂層厚を45cmとして貝を埋没させた実験では、貝は1日程度でその砂層を這いあがることから、埋没による貝の斃死は少ないことが判った。また、比重1.32のホッキガイを用いた実験により、底面が平坦な場合と砂漣がある場合について貝の移動限界流速を実験により推定しているその結果、底面が平坦の場合、貝の移動限界流速は殻長1cm、3cm、5cmの貝については、それぞれ約17(cm/s)、28(cm/s)、38(cm/s)、底面に砂漣がある場合については、それぞれ約29(cm/s)、40(cm/s)、50(cm/s)と報告している。
3−4 寄せホッキ
ホッキガイは冬季の大きな時化時に大量のホッキガイが砂浜に打ち上げられ斃死する「寄せホッキ」が生じることがある。福島県の磯部漁場では1964〜86年の22年間に7回の大規模な寄せホッキが発生し、大きな被害を生じている。この時の海域は、風速が約10m以上、有義波高は4m以上、周期は10sの高波浪時であり、殻長が3cm以上のホッキガイが海岸に打ち寄せられたと報告されている2)。
4. 潜堤による生息環境保全効果の水理的検討
4−1 流れ制御による卵・稚仔の流失減耗低減効果
(1)実験の方法
Fig-5.に示す平面造波水槽内に1/50の一様斜面を作り、潜堤がない一様斜面の場合、また、潜堤を設置した場合の潜堤背後水域における波高や流況を測定した。模型縮尺は約1/100とし、現地換算の潜堤長さ80m、高さ5m、天端長さ20mの台形断面(法勾配1/2)の不透過潜堤を水深7mの地点に、開口幅20mとして設置した。実験に用いた波は汀線に直角に入射する波向とし、一様水深部52mの地点で、有義波高Hl/3=5.0m、有義周期T1/3=14sの不規則波を作用させた。

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Fig-5. Multi-directional wave basin

(2)潜堤施工前後による流れの変化
一様斜面で披向洲下線に直角に入射する場合、流れの鉛直分布はFig-6a.に示すように表層は岸向きの流れ、中層から底層にかけては沖方向の離岸流や戻り流れが生じる。これに対して、水深hと波長の比h/Lが0.04、潜堤高rとhの比r/hが0.7とした潜堤を斜面上に5基を開口幅bと潜異長さlの比b/lが1/4となるように直列に並べて設置した場合、潜堤背後水域の中層と底層間の流れは、

 

 

 

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